吹奏楽、室内楽の楽譜出版社Golden Hearts Publicationsのブログ

吹奏楽、室内楽の楽譜出版社Golden Hearts Publications(ゴールデン・ハーツ・パブリケーションズ)のブログです。

あらためて伝えたい「大判スコア」「ビオトープ」のこだわり

 

こんにちは!Golden Hearts Publicationsの梅本です。

 

まだまだ吹奏楽をガツンとやれる状況ではないと思いますが、今日は原点に立ち返って、あらためてGolden Hearts Publicationsの吹奏楽の楽譜に使用している「大判スコア」「ビオトープ」のこだわりについてお話したいと思います。

 

もともとGolden Hearts Publications立ち上げのきっかけはベルギーのディートリヒ・ヴァンアケリェンから「自分の作品を日本で売って欲しい」という依頼からでした。

販売にあたって、ヴァンアケリェンからの依頼は「僕が自分で販売しているものとなるべく同じ仕様にしてほしい」ということでした。

彼の仕様はフルスコアの用紙に「ビオトープ」という用紙を使い、コイル製本(またはリング製本)することでした。

 

製本についてはまあ分かるとして、「ビオトープ」ってなんじゃらほい。全く知らなかったので調べました。紙屋さん(紙を専門に扱うところがあるのです)のサイトを見ると「素朴な強さを感じさせるファインペーパー」「クラフトを想わせる力強さ、しっかりした手触りに加えて、マットで深みのある色彩の豊かさが大きな魅力」と書いてあります。写真の見た目も、今まで見た紙とはだいぶ違う。

参考:TAKEOさんのサイト(ここくらいしか詳しく書いてくれている業者さんのサイトがないです)

ビオトープ|紙を選ぶ|竹尾 TAKEO

 

とりあえずどんな紙なのかなんとなくわかったところで、「どうせ楽譜の出版をするなら」と、それまでの吹奏楽の出版物にどんな不満があるのかリサーチを行いました。ひとつ確実にわかったことは、「市販の吹奏楽のスコアはA4サイズなんだけど、吹奏楽だと段数が多くて小さくて読めないから拡大コピーして使っている」ということでした。確かに僕の学生時代(高校も大学も)、「譜面係」みたいな人が拡大コピーして製本していました。国内の楽譜も海外の楽譜もレンタル楽譜以外はA4サイズが多いですよね。

 

そこにさらに新しい情報が入ったのがWind Band Pressで行ったJASRACさんへの取材です。吹奏楽では昔から「違法コピー」という言葉はあるものの何が違法なのかよくわからず誰に訴えられるわけでもなく、慣例のように「コピーして当然」みたいなところがありました。

オーケストラなどに名曲をたくさん残している昔の日本人作曲家が、昨今の作曲家のようにバンバンと吹奏楽曲を書かなかったのはなぜか、という話を聞いたことがあります。理由は、吹奏楽の人らは楽譜をコピーするから金にならない、だから書かない」というようなものだったと記憶しています。(もちろん著作権侵害なのでその点も大きかったと思いますが)

違法コピーを野放しにしていては、才能がある作曲家ほど吹奏楽から離れていってしまうのではないかという危惧があり、JASRACさんに吹奏楽に関することで何が違法なのかを取材しにいったのです。

その時の記事がこちらです。

 【インタビュー】音楽著作権について学ぼう~特に吹奏楽部/団に関係が深いと思われる点についてJASRACさんに聞いてみました - 吹奏楽・管楽器・打楽器・クラシック音楽のWebメディア Wind Band Press

 

そこで明らかになったのは、部活動であっても(学校内でも)、JASRAC管理楽曲についてはJASRACに複製(コピー機を使うのでも写譜するのでも複製です)の申請をしないと違法コピーとなる、そしてそれは民事請求や刑事罰の対象になり、刑事罰に関しては故意かどうかは問われない、という事実でした。つまり法律を知らずにコピーしていても刑事罰に問われる可能性があるということです。もちろんJASRAC管理外楽曲の複製であれば出版社などの権利者に確認が必要です。

 

どういうことかというと、「拡大コピーされるとわかっていながらA4サイズのスコアしか販売しない、用意しないということは、お客様を犯罪者にしてしまうリスクがある」ということです。それを知ってか知らずか、A4で販売されている。スコアの別売りもない。当時はそんな状況でした。

 

さらにリサーチを進めていくと、スコアを拡大コピーする際にも、A3に拡大する人とB4に拡大する人に分かれるということもわかりました。

 

拡大コピーを命じられた学生は、せっせと1ページずつコピー機にセットして、A3やB4に拡大コピーし、「製本」をおこなって指揮者にわたすわけです。権利者(複製権利を預かっている場合はJASRACも含む)に無断でやっている以上、そこにどんな青春要素があろうとも違法。下手したら部活もろとも吹っ飛ぶヤバイ行為です。

 

そこで、Golden Hearts Publicationsは吹奏楽のスコアについて「拡大コピーしなくても済むようにあらかじめB4かA3のスコアをセットする」「指揮者の好みに合わせてB4かA3を選べるようにする」「スコアは単品で買えるようにする」としました。

パート譜も各パート単品で買えるようにしていますが、これも人数が多いバンドが人数分コピーしなくてもいいように、ということと、逆に人数が少ないバンドがスコアと必要なパート譜だけを買えるようにするための措置でした。

 

試行錯誤を繰り返し、途中で作編曲家による推奨部数をセットにしたバージョンと、最小限の部数に抑えたバージョンを作ったりもしたのですが、明らかに大所帯のバンドが最小部数バージョンを購入するという事態が続き、確証はないけど「この人達、違法コピーする気では?」という疑念があったので今は推奨部数しか販売していません。こうやって利便性がどんどん失われていくのですね。

 

話を少し戻して、Golden Hearts Publicationsの方針として「大判スコアをセットにする」ことと、ヴァンアケリェンの希望に合わせてビオトープをスコア用紙に使うこと」を決めました。

この2つの条件でさらに「1冊からの受注生産」に対応してくれる業者は日本中100社あたってもほぼなくて、今お願いしている広島の1社のみが今の価格でなんとか出してくれています。常備するような紙でもないので、Golden Hearts Publications用にまとめて買い付けてくれています。常備しないということはその分紙代も高い、ということになります。
(他の会社に頼むとスコア1冊の販売価格が10万円を超えます、200万という見積もりを出してきた会社もありました、誰が買うんじゃい)

 

そして僕も実際にビオトープに触れることになるのですが、これが凄い。今までに触ったどの紙とも手触りが違います。よく、普通紙や厚紙で、うまくめくれずに右下あたりがクシャクシャになっているスコアがありますが、合奏でスコアがめくれないのってかなりのストレスだと思うんですよね。普通紙でコピーしたやつなんかはとくに薄いですしめくりにくいと思います。まずこのストレスがだいぶ軽減できる、しっかりとした手触り。これは感動しました。

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そして色はナチュラルホワイトという色を選んだのですが、上の写真のように薄茶色くらいです。これもとても良かった。というのも、真っ白い紙は舞台照明や音楽室の蛍光灯などの照明を強く反射するので、目が疲れるんですよね。目が疲れると首、肩、腰、と神経がつながっていますのでだんだん身体も疲れてきます。なので、目にも優しい色合いというのは指揮者の身体への負担という面でもメリットがあります。

 

この色合いの経験については、パート譜や、吹奏楽以外のアンサンブルなどのA4スコアの用紙の色を決める際にも役立ちました。パート譜などもなるべく目に優しいようにアイボリーの色を使うようにしています。

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ビオトープ&大判スコアについては、Wind Band Pressでコラムを書いて頂いてる指揮者の岡田さんに実際に収録で使っていただいたので、感想を頂きました。


「最近の吹奏楽のスコアは段数も多く、細かい音符が読みづらいので僕自身も困っておりましたが、フルスコアのサイズがA3サイズとB4サイズを選べることは非常にありがたいことでした。

使用する紙にもこだわりがあるようでしたが、大変見やすく、光の反射もあまり邪魔にならなかったです。

スコアという紙を通して音楽の情報を得る指揮者としては「見やすいこと」「めくりやすいこと」「書き込みがしやすいこと」がとても大事なのですが、スコアで使用されているビオトープはそれを問題なく快適にできました。

見た目の「高級感」も相まって、楽譜を各団体が「財産」として大切に思って購入していただきたいものだと強く感じました。」


また、作品を預かる作編曲家の方々にはサンプルをお送りしているのですが、基本的に資金ショート状態でなければビオトープ版をお送りしています。

そのうち、「タキオのソーラン節」のアレンジを預かっている木原塁さんからは「良すぎるくらいに紙質が良い」というような感じのお話を伺っています。

オーバースペックといえばオーバースペックなのかもしれません。なので安価版として、アイボリーの上質紙を使った安いバージョンも用意しています。これについてはヴァンアケリェンにも事情を話して同意を得ていますのでヴァンアケリェン作品にも安価版があります。

 

ただ、とにかく凄い紙なので、「ここぞ!」と気合の入っているときにはビオトープを使用したDX版を購入して欲しいですし、他の出版社にはないので、せっかくGolden Hearts Publicationsの楽譜を演奏するのであればDX版にして、みんなでビオトープ触ってみて欲しいと思います。

 

一応ビオトープのサンプルも0円で販売しています。送料はかかりますので他の商品と合わせてご購入いただければと思います。在庫限りで今のバージョンは販売終了にしようかなと考えています。

吹奏楽フルスコア用紙「ビオトープ」サンプル - 吹奏楽楽譜・アンサンブル楽譜の出版・販売|Golden Hearts Publications(ゴールデン・ハーツ・パブリケーションズ)

どんなものか気になった方は、ソロ譜やA4スコア(ビオトープじゃない)などと合わせてご購入頂き、違いを感じて頂ければと思います。「別にビオトープじゃなくてもいいな」ってなるかもしれませんし、「もうビオトープ以外は考えられない」ってなるかもしれません。まずは体験してみてほしいと思います。

 

ちょっと長くなりましたが今日はあらためてビオトープ(DX版)と大判サイズについてのお話でした。