吹奏楽、室内楽の楽譜出版社Golden Hearts Publicationsのブログ

吹奏楽、室内楽の楽譜出版社Golden Hearts Publications(ゴールデン・ハーツ・パブリケーションズ)のブログです。

なぜ楽譜が高いのか?楽譜代には何が含まれていて、何が含まれていないのか?というお話

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こんにちは!

Golden Hearts Publicationsの梅本です。

 

今日は「なぜ楽譜が高いのか?楽譜代には何が含まれていて、何が含まれていないのか?というお話」をしてみようと思います。

 

Golden Hearts Publicationsの楽譜は特に他の国内出版社と比べて高いですからね。その辺のお話は何度かしていますが、再度お話をしようと思います。

 

まずはGolden Hearts Publicationsの楽譜の、内訳についてお話をします。

 

他社さんの場合はどうなっているかわからないので、あくまでもGolden Hearts Publicationsから出版している楽譜のお話です。

 

Golden Hearts Publicationsの楽譜の価格を決定する要素、つまり原価の内訳は、下記の通りです。

 

・製本、印刷費:
Golden Hearts Publicationsでは製本と印刷をプロ(印刷所)にお任せしています。現在はDX版、安価版、その他A4サイズの楽譜などサイズや使用する紙に応じて3社使い分けています。また、吹奏楽の楽譜については1冊ずつの受注生産です。(たくさん作れば原価が下がる印刷所もあれば、何冊作っても下がらない印刷所もあります)

 

・作編曲家への印税(ロイヤリティー):
1冊売れるごとにいくらお支払いします、という印税を設定しています。

 

JASRACへの複製使用料:
JASRAC管理楽曲については、製造を行うたびに、その部数と販売価格に応じてJASRACに複製使用料を支払っています。これはGolden Hearts Publications(ONSA)が複製することについての使用料のみです。お客様が複製するための使用料ではありません。

 

・販売手数料:
オンラインストアで販売を行う際に販売手数料がかかります。販売価格の何%、みたいなやつです。これを無視して売価設定をすると赤字になったりしますので無視できない要素です。

 

・Golden Hearts Publicationsの利益:
先日値下げをしましたが、その前からほとんどの楽譜は作編曲家の皆様への印税よりも少ない利益で設定しています。卸売が出来ないくらいの低い利益率です。他の出版社さんから見たらボランティアに見えるような利益率かもしれません。わずかですが商売ですので赤字にならないように利益をいただきます。一般的な会社であればそこから人件費が出るわけなので利益率が低いのは褒められた話でもないです。

以上を合計、反映したものが販売価格になっています。

 

一番高いのは製本、印刷費です。

 

これは何度か発信していますが、吹奏楽の楽譜が特に高いのは、スコアが大判スコアだから、という理由と、1冊からの受注生産であるから、という理由です。

 

A4サイズのスコアであればだいぶ安く作れるのですが、実際には指揮者の方はA4サイズでは読めないので拡大コピーをしているという話も聞いていました。

 

拡大コピーは、出版社にも許諾が必要ですし、JASRAC管理楽曲であれば複製手続きをして複製使用料を支払わなければいけないのですが(無断でやれば違法コピーということになります)、それを知っている音楽愛好家は日本では少ないでしょう。

 

ですので、Golden Hearts Publicationsでは拡大コピーをしなくても済むように最初から大判スコアで販売しています。

 

生産数を増やして一冊あたりの原価単価を下げるという方法が出版社としては一般的かと思いますが、卸売をしない(利益率が低すぎて出来ない)ので、たくさん印刷しても自分のところでストックしなければいけません。

 

将来的には多く印刷してどこかに保管する方法を取る可能性がありますが、現状は規模も小さいので、1冊ずつの受注生産という方法を取っています。

 

以上が全てですので、それ以上のものは楽譜の代金には含まれていない、ということになります。


続いて著作権のお話です。

 

著作権についてはGolden Hearts Publicationsと同じく僕が運営しているウェブメディアのWind Band Pressなどでも色々とお伝えしてきました。

参考にWind Band Pressの記事も読んでみて下さい。

【インタビュー】音楽著作権について学ぼう~特に吹奏楽部/団に関係が深いと思われる点についてJASRACさんに聞いてみました - 吹奏楽・管楽器・打楽器・クラシック音楽のWebメディア Wind Band Press

 

 スコアの拡大コピーは違法?「でも出版社がA4サイズしか販売していないし、吹奏楽だとA4で指揮するのは難しい」そこでJASRACさんに確認してみました - 吹奏楽・管楽器・打楽器・クラシック音楽のWebメディア Wind Band Press

 

【許諾が必要な場合も】演奏会の動画配信やアップロードに必要な著作権の手続きなどについてJASRACに確認してみました - 吹奏楽・管楽器・打楽器・クラシック音楽のWebメディア Wind Band Press

 

著作権、と一言で言っても、その中には様々な権利があります。

 

例えばJASRACに信託(管理代行を頼むような意味です)できる「財産権」であれば、演奏、録音、出版(複製を含む)、録画、配信、など吹奏楽やその他音楽活動に必要な場合もある様々な権利が信託されている場合があります。JASRACに信託していない場合もあります。

 

これらについては楽譜代には含まれていません。全く別の権利として切り離して考え、適切な権利者、または権利管理会社に利用手続きをする必要があります。

 

ほかには吹奏楽などの音楽現場でよくあるのが「編曲」ですが、これも「編曲できる権利」などというものは楽譜代には含まれていません。

 

編曲については各出版社にまずは問い合わせをしてみるのが良いでしょう。JASRACは編曲については何も管理していませんのでJASRACに問い合わせるものではないです。

 

ですが、JASRACJWIDという作品検索サービスを使うと、どの会社が権利を管理しているかわかることもあるので、問い合わせ先を調べるのにJWIDを使ってみるのは良いと思います。(無料です)

https://www2.jasrac.or.jp/eJwid/

 

海外の出版社の場合、「英語が出来ないからよくわからない」という理由で違法行為(無許諾の編曲や複製など)をする人もいるかもしれませんが、いかなる理由でも違法は違法なのでダメです。

英語はDeepLという無料の翻訳サービスが翻訳精度が高いのでオススメです。

 

編曲に関する問い合わせの文例はGolden Hearts Publicationsでも公開しています。

作品の編曲、改変およびカットについて - 吹奏楽・管楽器・打楽器の楽譜の出版・販売|Golden Hearts Publications


まとめると・・・

・楽譜の販売価格には様々な「製造、販売にかかる費用」が含まれている

・楽譜の販売価格には著作権に関する権利料などは一切含まれていない

です。

 

出版社によっては「不足分のパート譜のコピーはご自由に」という会社もあるのですが、Golden Hearts Publicationsは「ご自由に」ではありませんのでご注意下さい。

 

義務教育で音楽の授業はあっても、そこで著作権について学ぶこともないでしょうから、著作権を含めて知的財産権というのは、知らないままで育つことの多いものです。

 

道路交通法と似たようなところがありますね。免許を取りに自動車学校に通うような人は道路交通法についても学んでいきますが、免許を取らない人は道路交通法を知らずに人生を過ごしていたりします。

 

中学生や高校生が自転車で並走していたりしますよね。著作権についても同じようなことが言えるのではないかなと思います。

 

それは国の教育システム的な課題なのか、それとも大人の背中を見て育った結果が今なのか(つまり社会的な課題なのか)、わかりませんけれども、著作権法違反(著作権侵害)を行った場合には、著作権者は、著作権侵害者に対し、損害賠償請求、不当利得返還請求、侵害物や侵害に供された機器の廃棄などを請求することができます。話合いで解決に至らない場合は、やむをえず司法に判断を求める場合もあります。

 

なお、悪質な侵害に対しては、民事上の責任だけでなく、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金など刑事上の罰則が定められています。

 

刑事罰については、「その法律を知っていたかどうか」は問われません。「知らなかった」でも刑事罰の対象となります。

 

著作権について知る、守るということは、自分自身やバンドのメンバー、または学校の部活そのものを守る行為でもあります。

 

これを機に、知的財産権について勉強してみるのも良いかなと思いますよ。知的財産権については知的財産管理技能士の資格試験用のテキストなんかを買うのが良いかもしれませんね。

知的財産管理技能士についてはこちらを参照。(僕は誰でも受かるという噂の三級です)

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