會田瑞樹氏がヴィブラフォン独奏用に編曲した「琵琶湖周航の歌」の販売を開始しました!
作品について
東洋史学者であると同時に、僕の祖父である寺田隆信(1931-2014)は音楽が大好きだった。一緒に旅行をしたり美味しいものを食べに行ったり、そんな身近な祖父の偉大さは亡くなった後に気がついたように思う。代表作『物語中国の歴史』(中公新書)は中国の通史を学ぶ上でも今尚多くの人に読み継がれている。
祖父はどちらかといえば、僕に”学問”をしてほしいと思い続けていた。僕が”楽問”の道に進むと決めたと緊張しながら伝えた時、なんとも残念そうな表情を浮かべたことをよく覚えている。それでも陰ながら応援をしてくれたことへの感謝とその思い出が結びつく音楽。それが《琵琶湖周航の歌》であった。三高ボート部の歌として誕生し、やがて学生歌へと継承されていったこの音楽を、祖父はお酒が入り上機嫌になるとかならず歌い出すのだった。まだ幼かった頃の僕にはその歌詞の意味もわからなかったが、祖父にとって心から思い入れのある一曲であることが記憶に刻み込まれていた。思い出を手繰り寄せるようにヴィブラフォンで爪弾き、2014年秋のヴィブラフォンリサイタルで初披露以降、各所で演奏を重ねてきた。
2019年冬に、梅本周平さんより出版のご依頼をいただいた。自分だけが演奏するものと思い一切楽譜にしていなかったので、改めて自分の脳内から一音一音、楽譜にしていく作業は実に興味深かった。その点では浄書の小國晃一郎さんの手を大いに煩わせることになってしまったことをお詫びしたい。そして、お二人のご尽力に心から感謝を申し上げたい。
演奏にあたって
しみじみとしたテーマは奏者に委ねられる。この歌に込められた様々な意味や、風景を思って演奏してほしい。心に感じるままに演奏することの大切さを楽譜にできたことを心から嬉しく思う。各々の変奏は僕自身の音楽観もよく出ていると感じる。音の余韻を聞くこと、そして鮮やかに移り変わる和声の魅力を引き出してくださることを願っている。
祖父がこの楽譜を見たら、「わしも楽譜に名前が書かれるとは思わんかったな。」と、照れ笑いを浮かべるような気がしている。
(會田瑞樹)
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