吹奏楽、室内楽の楽譜出版社Golden Hearts Publicationsのブログ

吹奏楽、室内楽の楽譜出版社Golden Hearts Publications(ゴールデン・ハーツ・パブリケーションズ)のブログです。

吹奏楽のポップス楽譜は安くて当たり前?ではないんじゃないか、というお話

 

こんにちは!

Golden Hearts Publicationsの梅本です。


今日2本目のブログです。(1本目は毎週定例のアクセスランキング)


真面目な話になりますが聞いておくれ。


吹奏楽のポップス楽譜というとどんなものを思い浮かべますか?

たぶんパッと浮かぶのはJ-POPなど流行歌のアレンジだったりニュー・サウンズ・イン・ブラスだったりするんじゃないでしょうか。

そういったアレンジ作品の出版がメインの吹奏楽系の出版社はパッと思いつくところでは3社ありますね。ミュージックエイトさん、ロケットミュージックさん、ウィンズスコアさんあたりでしょう。

発刊数も多いし楽譜になるのが早いですよね。そして何より安い。

単曲であれば3,000円~5,000円くらいの幅で買えちゃうんじゃないでしょうか。メドレーなどになると1万円くらいですかね。NSBはだいたい1万円くらいしますけど、消費者の相場感覚って上記3社の価格帯だと思います。

安いです。安い。バンドとしては助かりますね。

販売価格を安くする方法はいくつかありますが、ざっくり言えば「製造原価」が安ければ安いほど販売価格も安く出来ます。これは別に楽譜に限ったことではないです。シュークリームとかでも一緒です。

各社の事情は知らないのでどうやって各社が販売価格を抑えているのかは知りませんが、製造原価を安くするためにはいくつかの方法があります。

1. 自社ですべて完結させる(印刷会社などの外注を挟まないで自社で印刷製本を行う)
2. 大量に印刷して単価を下げる(印刷会社に頼む場合)
3. 編曲者へのロイヤリティ(印税)の率を下げる

などです。

1はまあ人件費の問題しかありませんが(人件費を下げるという手もありますね)、2-3については「大量に売れる」ことが見込めないと出来ないことです。

なので売れている人気の曲はすぐにアレンジを委嘱出来るけれど、「いい曲だけど大ヒットはしていない」ような曲はなかなか安い価格で展開するのは難しいです。

でも相場感覚(消費者の感覚)としても「ポップスは安い」という意識が強いと、高い価格のポップス楽譜を出してもなかなか売れません。映画音楽のセレクションみたいなメドレーだと1万円くらいの相場感覚だと思いますが、例えば「紅蓮華」が1万円で売っていたとしても現状だと買うバンドはあまりいないんじゃないでしょうか。

利益率の設定は各社違うと思うのでなんとも言えませんが、販売価格が安いので、本当にたくさん売らないとあまり儲からない世界です。

以上は「流行歌のアレンジ楽譜」の話でしたが、「流行歌ではない曲のアレンジ」「吹奏楽オリジナルのポップス」はいかがでしょうか。

海外ではそのあたりに強い出版社もありますが、輸入して販売するとだいたい1万円~2万円くらいですかね。

Golden Hearts Publicationsにもポップス楽譜が今の時点で2作品(オリジナルとアレンジ)ありますが、Golden Hearts Publicationsはスコアが大判なので、大判スコアとパート譜のセットだと安価版でも1万円を超えます。これは上記の
1. 自社ですべて完結させる(印刷会社などの外注を挟まないで自社で印刷製本を行う)
2. 大量に印刷して単価を下げる(印刷会社に頼む場合)
3. 編曲者へのロイヤリティ(印税)の率を下げる
のどれも出来ない状況にあるからこの価格なのですが、資金が潤沢にあって「売れなくてもいいや」というくらい余裕だったら2の大量生産をして安くすることは可能かもしれません。

ただ、販売価格を安くするとその分編曲者や作曲者へのロイヤリティも減ってしまいます(だいたい販売価格の○○%、という契約だと思うので)。100冊とか売れるならそれでも全然良いんですけど、「印刷してみたけど売れなかった」だと話にならないので、出版社としてはなかなかそうもいかない。ボランティアじゃないですからね。会社の人件費、社員のお給料にも関わってくることですから。

日本で流行歌以外のポップスアレンジや吹奏楽オリジナルのポップスが増えないのってこの辺の影響があるんじゃないかあとか考えています。あくまでも現時点での私見でしかないのですけれど。

消費者の相場感覚に合わせて安く販売した場合に、例えばオリジナルポップスが「鬼滅の刃」関連の曲ほどたくさん売れるかというと微妙ですよね。そこまでの見通しは立たない。

そうなると作家さんにお金がほとんど入らないし、出版社も儲からない。となると安い価格でオリジナルポップスを販売するのは結構な冒険になります。だから大量生産をしないという方向に行くわけですが、そうであれば販売価格も上げざるを得ない。でも高いと売れない。結果的に「詰み」になるので、「出版しない」「作曲しない」という方向になってしまいます。

吹奏楽のためのオリジナルポップスを書きたい作家さんは結構いるかもしれないのですが、出版社としてはそれが高価格帯で売れるかどうかは摩訶不思議アドベンチャーなわけです。

Golden Hearts Publicationsのスタンスとしては「ポップスだろうがそうじゃなかろうが作品の価値に違いはない」というスタンスなので今の市場の相場感覚をある程度無視して他の楽譜と同じやり方でやっています。「ポップスだから安い」っていうのが嫌なんですよね。PDF版は製造原価がほぼかからないので安くしてますけど、これはポップス以外の作品も同じです。

良質なオリジナルポップスが増えたら楽しいだろうなと個人的には思うのですが、そういう作品が増えるような世の中にするためには、「高くても売れる」と出版社に思わせないといけません。

もちろんバンドの予算事情というのもあると思いますが(だから違法コピーも減らないんでしょうけど)、そもそも音楽ってお金がかかるものなので、「お金がないけど演奏したいから」といって貸し借りや違法コピーをしていいわけじゃないですし、良質なオリジナルポップスをもっと出してほしいなと思ったら、「1万円を超えていても良作であれば買うし!演奏するし!もっと出してくれ!」みたいな環境を整えていかないといけません。

出版社も例えばロケットミュージックさんの「GOLD POP」シリーズみたいな高価格帯のラインをもっと出していってもいいかなと思いますし、出版社や作家さんが「売れるものだけ作る」みたいなところだけでなく「まったく新しいポップス作品を提供する」というところまで幅広く展開できるような世界が望ましいなあと思います。

作家さんが作品を納品するまでにかかる労力(日数だけじゃなくて)はポップスアレンジもオリジナルポップスもシンフォニックな作品も変わらないと思うので、もっとオリジナルポップスを書いてくれる作家さんや、アレンジャーの方に多くを還元できるようになるといいなあと考えています。

PDFで買うのが主流になればまた相場は変わってくるのかなと思いますけれどね。

ただやっぱり販売価格が安いと1冊あたりのロイヤリティは減るので、余裕をもってガチのオリジナルポップスを書ける環境を作るには、相場感覚に対して「これ安すぎじゃない?」っていう感覚の人がもっといても良いのかなあと思います。

そんなわけで・・・ぜひ・・・下記2作品も買ってね・・・!!

【吹奏楽 楽譜】Starry Night Express 作曲:金山徹

 

【吹奏楽 楽譜】タキオのソーラン節 Takio’s Sohran 2 作曲:伊藤多喜雄(Takio Ito) 編曲:木原塁(Louis Kihara)