吹奏楽、室内楽の楽譜出版社Golden Hearts Publicationsのブログ

吹奏楽、室内楽の楽譜出版社Golden Hearts Publications(ゴールデン・ハーツ・パブリケーションズ)のブログです。

軍人だった祖父と「星条旗よ永遠なれ」の話

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2011年に呉で撮影



こんにちは!Golden Hearts Publicationsの梅本です。

ブログっぽいブログは2021年に入ってから初かもしれませんね。

さっきふと思い出したので書いてみようと思います。


もう亡くなりましたが、僕の母方の祖父の話です。(父方の祖父はまだ元気でもうすぐ100歳近いはずです)

祖父は海軍にいて、太平洋戦争に軍人として参加していたそうです。

名古屋の人なのですが広島にも来ていたみたいです。不思議な縁です(僕はいま広島に住んでいます)。


僕は高校・大学と吹奏楽をやっていたのですが、大学時代は定期演奏会のCDを自主制作していました。途中から吹奏楽部のウェブサイトで販売も開始したのですが、僕が2年生のときまでは非売品でした。

いつの演奏会か覚えていないのですが、CDが出来たから家族・親戚に配りました。

両親ともに名古屋出身なので実家は両方とも名古屋にあり、僕も名古屋出身です。中学1年生の夏に父親の転勤に合わせて東京に引っ越しました。

なので祖父を含めて親族に会うのは年に1-2回くらいでした。

そんなこともあり、「僕はいま東京でこんなことをしていますよ」という報告も兼ねて聴いてもらいたいなと思ったんでしょうね。

その後、年末年始だったか時期は定かではないのですが母の実家(祖父の家)に行ったときに、祖父が僕が送った定期演奏会のCDをよく聴いているという話を聞いて、嬉しかったのですが、よくよく話を聴くと「星条旗よ永遠なれ」だけを繰り返して聴いていたんだそうです。

「じいちゃんこの曲好きでなあ」

なんて話をした気がします。

アメリカと戦った人が「星条旗よ永遠なれ」を好きというのも当時は不思議な感覚だったんですが、「これが音楽のちからか」とおぼろげながら思った記憶があります。


僕はGolden Hearts Publications(ONSA)を始める前から、国籍とか関係なくいろいろな曲を聴いていて、例えばロックやポップスを「洋楽」「邦楽」と分けるのもしっくりこなかったし、僕が大学生当時にすでに始まっていた、吹奏楽のある種の国粋主義的な「邦人作品」という分け方も大嫌いです。かといって海外がすごくて日本人はダメ、みたいな見方も好きではありません。

だからこういう事業、例えばGolden Hearts Publicationsであれば多国籍軍のような顔ぶれで楽譜を展開したりしているわけですけど、音楽を演奏する際に作家のルーツなどを知ることは大事ですが、単純に聴いたり選曲したりするときに、国籍で分けるのは本当に意味がないなと考えています。

(すでに「今回はフレンチで」などのコンセプトが決まっていて探す場合は別です)

もちろん育ってきた環境が大きく作品に影響を与えることも多々あるので、編成なども含めてお国柄というのはあるのですが、作品の好き嫌いに国籍が影響することはありません。

もし影響するのであればおそらくそれは音楽を聴いているのではなくて国籍などの背景を見ているだけなのです。肝心の音楽には入り込めていないでしょう。


僕はロックが好きなのですが日本のロックも外国のロックも聴きますし(今は原稿を書きながらアメリカのフー・ファイターズの新作を聴いています)、吹奏楽曲を含めてクラシック曲を聴くときにも、その人が何人でどこに住んでいるとかは僕にとってはかなりどうでもいい情報になります。

Golden Hearts Publicationsで取り扱いを決める場合には僕がその作品を売りたいかどうか、それだけですので、どこの国の誰でも良いんですね。

いま印刷代行ではなく「Golden Hearts Publicationsから出版」という感じでやっているのは日本、香港、イタリアの作家さんがいますが、これが別にもっと他の国から売り込みがあっても、それが僕が好きな作品であれば全然ウェルカム。

自然とそうなっている部分と、意図的に国籍バイアスを外そうとするときがありますが、いずれにしてもこういう考え方のルーツの一つに、あの祖父の話があるのかなと思いました。

太平洋戦争で戦ったアメリカの曲。多くの仲間が死んだ戦争相手の曲。でも音楽そのものにはその戦争やアメリカは関係なく、ただ楽しい。

祖父は「戦争は二度と起こしてはいけない」と言っていました。戦争を体験していないアナウンサーなんかが特集番組のあとで「このようなことを二度と・・・」などと言うと「このようなってなんだこっちは必死でやったんだぞ、体験していないやつに何がわかるんだ」とブチキレてましたけど。

戦争を知らない人が戦争を知ったような顔をして「あんなこと」みたいな話をすると怒るけど、体験したからこそ平和を願う気持ちは僕らのような世代よりもはるかに強かったと思います。

なので僕にとって「星条旗よ永遠なれ」は、かつてアメリカと戦った祖父が繰り返して何度も聴いたという「平和の象徴」のような曲です。

音楽を楽しむのに政治も国籍も関係なくね?という大事なことを、祖父から学んだような気がします。

なお祖父は特にクラシックファンではなかったようで、子供の頃遊びに行ったときには演歌を聴いて歌っていたような気がします。のど自慢も見てたな。普通のおじいちゃんだね。

ちょっと思い出したことが今の自分の生き方とリンクしたので、ちょっとそんな話をしてみました。

本当、吹奏楽国粋主義的「邦人作品」縛りは好きじゃないな。たまたま好きなのを集めたら全部邦人作品だった、というのは別になんでもないんですが、提供する側の意識として「日本人?じゃけなんなん」というのはあります。日本人なだけじゃん。音楽の出来や僕の好みとは関係ないじゃん。何人でもいいじゃん。

そんなスタンスです。(日本人にこだわるスタンスの人はそれはそれでなにか理由があるんだと思いますが)

ぜひ国籍に縛られずに、意図的に国籍を無視して、本能のおもむくままにいろいろな音楽を聴いて欲しいなと思います。