吹奏楽、室内楽の楽譜出版社Golden Hearts Publicationsのブログ

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なんでパート譜のバラ売りを始めたのかという話

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こんにちは!

Golden Hearts Publicationsの梅本です。

今日は前回の「なんで最初からスコアをウェブで公開したのかという話」に続き「なんでパート譜のバラ売りを始めたのかという話」というタイトルで書いてみます。

Golden Hearts Publicationsという楽譜出版(または海外作曲家自費出版作品の印刷代行)事業を始めるにあたり、もっとも懸念されたのが日本の吹奏楽界に蔓延していた「違法コピー」の存在です。

コピーする人はそれを違法と思っていないこともあるので(ほぼそうかもしれません)、正しい著作権について知ってもらう啓蒙活動を行うと同時に、「違法コピーしないで済む」という状態を出版社側で整備するべきだと考えました。

バンドによっては演奏する人数が少ないところもあれば逆に多いところもあり、人数の多いバンドが「全員で演奏するぞー」となると、通常、販売されている楽譜やレンタル楽譜に入っているパート譜の数では足りません。(そのため出版社によってはレンタル楽譜の場合はプルト増しといういくばくかのコピーを許可している場合もあります)

逆に人数の少ないバンドからすると、「そんなにパート譜入れなくていいから安くしてよ」という話だったりします(だいたい小さいバンドは予算がないでしょう)。

そこで、今ではもう廃止していますが、当初はスコア+パート譜セットに含まれるパート譜の数は「最小編成(最小部数)」というパターンを用意して、最小編成のセットと、不足分のパート譜を個別に買えるようにしました。

こうすることで本当に必要な分だけを買っていただき、違法コピーが減らせるのではないかと考えたのです。パート譜が個別で買えないからコピーするしかないんだろうな、と思ったわけです。性善説的ですね。僕は他人を信用して騙されるタイプというくらいに人を信じます。

しかし日本の吹奏楽の「コピー文化」は僕が考えるよりも相当やばかった。

明らかに大人数のバンドが最小部数を買って個別のパート譜を一切買わないという事例が発生しました。実際に何人で演奏したのかどうかは知りませんが、安い最小編成版セットを買ってパート譜はコピーする、という使い方をしている可能性が非常に高かったので(これは問い詰めても「最小編成でやりますよ」と言われたらそれで終わりです)、現在は最小編成(最小部数)は廃止して、吹奏楽ブラスバンドに関しては作家さんの推奨する編成を最初からセットに入れて、一部の大人数のバンドなど「少しパート譜足りないな」というバンド向けにパート譜をバラ売りしている、という状況です。(ひとつのバンドの行動でサービスが廃止される例ですね、他のバンドが必要としていたとしても)

「どうせコピーされるんだからパート譜売らなくてもいいじゃん」という意見もあるかと思いますが(あるのか)、いざ不足があったときに「買えないからコピーするしかないじゃん」という状況に現場を追い込んでしまうのは、出版社として無責任だと考えました。違法コピーをしなくても済むような販売形態を提供すべきなのです。どの出版社も現場が違法コピー天国なのは知っているはずなのに。

著作権を理解しているバンドは、人数が多くてパート譜が不足していた場合、パート譜のバラ売りを利用してくれると、僕は今でも信じています。信じてますからね。お願いしますよ。

ただほとんどの出版社は対応してないので(国内外問わず)、「足りなかったらコピーするのが普通だよね」という認識が定着するのも仕方がないのかなという気がします。これは出版社業界の怠慢ですね。なんでバラ売りしないんですかね。作家さんから預かった大事な作品を「準備するの面倒だから勝手にコピーしてよ、見て見ぬ振りするよ☆」と言っているようなもんです。

実際にはJASRAC管理楽曲であれば、JASRACに複製手続きをすれば合法にコピーが出来ますが、複製にかかる費用が高いらしいですね。なので「我が社はパート譜のバラ売りしてないけど皆さんがJASRACに手続きしていると信じています」というのはちょっと嘘くさいですよね。わざわざJASRACに複製手続きして高いお金払ってコピーしますかね(してほしいけど)?結局出版社側が面倒なだけじゃないかなって思ったりしています。

実際にONSAでパート譜の個別販売をしているのはGolden Hearts Publicationsのストアだけですが、登録するのマジ面倒です。泣きそうなくらい面倒ですし、1個あたりの利益はぶっちゃけほぼないですけど、やらないとダメでしょ、ちゃんと著作権守って買いたい人が買えるようにしないとダメでしょ、というのがパート譜のバラ売りをしている理由です。

僕は一人でそれをやっているので、スタッフの多い会社が出来ないわけはないんですけどね。レンタル楽譜以外は印刷所にまとめて発注しているから・・・という事情もありそうですが、パート譜単品だけは自社のプリンターで印刷するとか対応のしようはいくらでもあると思いますよ、ちゃんとした印刷機も持っていない僕ですらパート譜1部から印刷してくれる印刷所見つけられましたし、結局本気度の違いだと思われても仕方ないですよね。

そんなわけなので、今日はあらためて著作権のお話の記事へのリンクを張っておきます。著作権って刑事罰ありますからね。何かやっちゃってからだと僕も守れないですよ。民事請求されることもあるので、民事と刑事のダブルパンチなんです。

【インタビュー】音楽著作権について学ぼう~特に吹奏楽部/団に関係が深いと思われる点についてJASRACさんに聞いてみました - 吹奏楽・管打楽器に関するニュース・情報サイト Wind Band Press



他の出版社も吹奏楽なんかの楽譜はパート譜の個別販売に対応するのが当たり前、という世界が来るといいなあとか考えつつ、今日はこのへんで。